2022.02.18(Fri)
夫が受け取れる遺族年金は、こんなに違う!家計を支える妻が知るべき最低限の知識。
保険 / 社会保障制度ここ最近よく目にするワード『多様性』。
FPという仕事柄、様々な夫婦の形を目にする機会がありますが、『確かに夫婦の形も様々ある』と感じることが多いものです。
例えば、妻が夫の5倍以上稼いでいる夫婦。
多様化が進む令和の時代、逆のパターンだってちゃんと存在するんです。
そんな場合、勿論家計を支えているのも妻だったりするのですが、この『妻の方が主に家計を支えている場合』は、『絶対忘れてはいけない注意ポイントがある!』ので触れておきたいと思います。
性別の違いによって変わる遺族年金
それは、万が一妻が亡くなった時に『夫』が受け取る公的遺族年金についてです。
『男女平等』…そう謳われて久しいですが、そもそもこれって『公平なチャンスに恵まれない女性に対する機会均等を目指し』できた言葉です。
でも、この『経済力がある配偶者に先立たれた妻』の保障に関しては、圧倒的に女性有利にできており、主夫など家計を妻に支えてもらっている男性はとても不利な状況にあります。
例えば、経済力が低い妻(専業主婦含む)で子供がいるの場合、妻が受け取る遺族公的年金には『全くもらえない時期』というのはありません。
ところが、逆のパターンの場合。
妻の年収の方が高く夫婦間での年収差が大きい場合、夫には遺族年金が全く受け取れない期間が存在するのです。
それは、たとえ生前、妻が家計全てを支えていたとしても変わりません。
このポイントを考慮せずに、万が一が起こって夫と子供が残されてしまったら…知らないと、かなり困ってしまうと思われます。
具体的に数字で以下のケースで比較してみましょう。
経済力がある夫に妻が45歳で先立たれた場合(10歳の子供あり)
- CASE①経済力がある夫が死亡した場合
- 夫:45歳(年収1000万円) 妻:45歳(年収120万円) 子供:10歳
※夫の新卒時20代の平均年収は420万円、30代の平均年収700万円、40~41歳の平均年収900万円と仮定。
この場合、妻が受け取れる年金は以下になります。
妻の年齢 | 受け取る公的年金 | 累計額 |
45歳~53歳 | 167万円/年(遺族基礎+遺族厚生+子加算) | 1503万円 |
54歳~64歳 | 125万円/年(寡婦年金+遺族厚生年金) | 1375万円 |
65歳~90歳 | 144万./年(遺族厚生年金+本人の老齢基礎年金) | 3744万円 |
6622万円 |
※表はライフプランソフト大成功家族により試算し筆者作成
細かい説明は省きますが、遺族基礎年金や寡婦年金…名前は変われど様々な公的年金サポートにより、妻は45歳から90歳までの間にトータル6622万円の公的年金が何らかの形で受け取ることができます。
子供が18歳になった後も保障は継続し、金額が足りるかどうかは別として、遺族保障は途切れることはありません。
では次に、夫が経済力ある妻に先立たれた場合を見てみましょう。
経済力のある妻に45歳で夫が先立たれた場合(10歳の子供あり)
- CASE②経済力がある妻が死亡した場合
- 夫:45歳(年収120万円) 妻:45歳(年収1000万円) 子供:10歳
夫の年齢 | 受け取る公的年金 | 累計額 |
45歳~53歳 | 167万円/年(遺族基礎+遺族厚生+子加算) | 1503万円 |
54歳~64歳 | 0円 | |
65歳~90歳 | 114万/年(本人の老齢基礎年金+老齢厚生年金) | 2964万円 |
計 | 4467万円 |
一方、夫が残された場合は、遺族として払われる公的年金は子供が18歳になるまでです。
子供が18歳になってからは、遺族保障はなし。
まずここで、経済力がないのが妻であるか、夫であるかで大きな違いが出てきます。
『だったら夫が働いたいたらいいじゃない?今は100年人生だからといえど、45歳なんだし。』
そういう意見もあるでしょう。
でも、もしこの男性が、働く妻を支えるため家事子育てをメインでやってきた男性だったとしたら、そこから妻と同等の収入を得られるようなキャリア形成は、現実的にはなかなか困難なはずです。
生活はあっという間に破綻してしまうこともあるでしょう。
老齢年金でも大きな差!
それだけでも結構大きな違いではありますが、さらに残されたパートナーが65歳から受け取る老齢年金も『男性か?女性か?』で大きな違いが出てきます。
上記の45歳で配偶者をなくしたケースで比較してみましょう。
高収入の夫を亡くした妻の老齢年金
私たちの老齢年金は、会社員や公務員の場合2階建てになっています。
それが国民年金と厚生年金(会社員や公務員が加入)です。
厚生年金の方は、加入期間や収入によって老後受け取る金額に差がありますので、当然専業主婦やパートで働くなど年収が低い人は、受け取れる年金額も少なくなります。
しかし、45歳で夫を亡くした妻の老齢年金は、自分の年金にプラスして夫の厚生年金の一部が受け取れるため、夫の死後の自分の収入が少なくても、ある程度カバーできる形が整えられています。。
上記の例で言うと、自分の国民年金と夫からの遺族年金で年144万円が受け取れます。
高収入の妻を亡くした夫の老齢年金
しかし、若くして経済力ある妻を失った夫(この例では45歳)は、ここでも不利益を被ります。
なんと、遺族厚生年金がないので、受け取る年金は自分自身の年金のみ。
先述したとおり、厚生年金額は自分の収入や勤続年数によって影響を受けるものなので、これまで家事や子育て中心に生きてきた男性にとっては、死活問題になりえます。
※妻が亡くなった時に55歳以降であれば、主夫でも60歳以降遺族年金等を受けとることはできます。
上記で比較した場合、性差が理由で受け取れない年金の差額は年30万円。
これが30年以上となれば、1000万円近い差額となります。
まとめ
『一家の大黒柱が妻である夫』は公的遺族年金においてはかなり不利な立場にいます。
上記のケースでは、結果として夫婦の性別が逆転しただけで、受け取ることができる公的年金の差額はトータル2000万円以上になりました。(遺族年金と老齢年金の差額を合算)
高収入である妻の立場から言えば、同じ税金払っているのにどうして?と理不尽に思う方もいることでしょう。
しかし現実は現実。
当面は、遺族年金の違いを理解し、万一の時に必要はお金は民間の保険に個人に加入して備えるしか手立てはなさそうです。
そして稼ぐ妻は、残された愛すべき家族のためのことを『しっかり』考えておく必要があります。
最後に。
個人的には、多様化が進む現在の家族のカタチに、少しでも早く対応できるような年金制度の改革を切に祈っています。